何を経験するか

以前、『経験すること』の記事を書いた後に、

どんな活動の「経験」が必要かについても、書いた方がいいかなと思いました。

相談を受けていると、時々「こんな習い事をさせてもいいでしょうか」と

保護者から尋ねられることがあります。

 

いろんな考え方をする専門家はいらっしゃると思いますが、

私は、よほど本人が嫌がることでなければ、自由に選んでいいと思っています。

何がどんなふうに芽を出すかわからないし、いい出会いが待ってることもあります。

発達障がいだからといって、制限するものでもないかなと思います。

 

ただ、経験が不足しがちで、身につけるには時間を要する彼らですので、

どんな内容の経験をするのか、という優先順位はあるのかなと思います。

 

それで、記事を書くために考えを整理していましたら、

大きく二つの視点からお話した方がよさそうです。

 

一つ目は、どんな「活動」をするのか、ということ。

もう一つは、その活動を通じて、何を学ぶのか、ということです。

 

 

今回は一つ目。どんな「活動」を経験するといいか、です。

 

成人の相談支援の現場から見えてきたことがあります。

それは、学力(学歴)が高くても就労が難しいこと、

そして自立した職業生活を営んでいくことが難しいこと、です。

 

一般的に学童期には、学校に通い、『集団生活』と『教科学習』を学びます。

集団で大きなトラブルがなく、学力がそこそこ維持されていると、

特に心配はないとされてしまうことが多々あります。

 

反対に、集団になじめなかったり、学力がついていけない場合には、

そこをきっかけに発達障がいの診断につながったり、サポートが入ったりします。

 

保護者からの相談でも、友だちとうまくやれるか、勉強についていけるか、

という悩み事が多く寄せられます。

学校でわからなかった教科を家庭で教えたり、苦手な宿題に数時間付き合ったり、

家に友だちを呼んで関わる機会を作ったり、と涙ぐましい努力をされています。

 

これらは、とても大事で本当に必要なことだと思いますが、

経験の優先順位から考えると、実は後の方に来ると私は考えます。

 

対人関係やコミュニケーションの苦手さも難しさの一つですが、

それよりも発達障がい者は、家事、スケジュール管理、金銭管理、体調管理など、

自立生活に関わる事柄で、困難さを抱えることの方が、圧倒的に多いのです。

 

約束に間に合うように朝起きる。

部屋を片付ける。

お金を計画的に使う。

一定の睡眠時間を確保する。

栄養バランスが偏らない食事を作る。

身だしなみや清潔を整える。

公共機関を使って外出する。

趣味でストレス発散する。…等々。

 

計画性や段取り、見通しや全体像を持つ、一時的な記憶の定着、同時並行で行うこと、

などが苦手な特性から、これらのことが身につきにくいです。

また一つ一つはできるけど、時間を要したり、生活全体で優先順位をつけて調整したり、

時には手を抜いて省いたり、人の助けを借りたりが苦手なこともあります。

 

家族といると、本人が自力でどれだけできるのかが見えません。

勉強や友人関係を優先してたら、後回しになりがちです。

     

なので、一人暮らしをし始めてから、とか、結婚して家事や子育てをきっかけに、

発達障がいに気づいた、という方も数多くいらっしゃいます。

 

実際に職場で求められるスキルは、仕事そのもののスキルだけでありません。

コミュニケーションスキルとともに、いやそれ以上に、

仕事上もプライベートでも、さまざまな自己管理能力が求められるのです。

 

 

ですので、幼児期からぜひ経験してほしいのは、自立生活に必要なスキルです。

料理、洗濯、掃除、電車やバス、スーパーやコンビニ、レストランやファストフード店、

銀行や郵便局、病院や薬局、図書館や美容院など、ただ行くだけでなく、

窓口での受付やお金を払うことも含めて、一通り体験をしておきます。

 

と、こういうことを講座などで話していたら、わかりやすい本が出てくれました。

 

『15歳までに始めたい! 発達障害の子のライフスキル・トレーニング

 梅永雄二監修  講談社 2015年

 

梅永先生のお話は、以前から研修会等で聞いてて、待ちに待った書籍化だったため、

最近は、自立生活のスキルのことを「ライフスキル」として紹介しています。

 

 

それと、ここで重要なのは、全てのスキルを身につけさせることではありません。

本人が自力で、どのくらいできるのかを把握することです。

やってみて、どうしてもできないことは、公的な支援サービスを活用します。

 

また、口頭やモデルだけで教えると、2回目以降はやり方を忘れることもあります。

視覚的な手順書(マニュアル)を活用することで、毎回取りこぼしなくやれますし、

もし変更点があれば、手順書に書き込めば、修正も容易になります。

 

そして、幼児期から成人期を通して、ライフスキル獲得を取り組むことにより、

自己肯定感や他者への信頼感など、心理面でのさまざまなプラスの効果がありますし、

ご本人の自己理解や障がい受容などにつながっていきます。

 

そのことは、次の「その活動を通じて、何を学ぶのか」でお話ししようと思います。

 

 

※ここに書いたことは、これまでの実践経験から得た知恵みたいなもので、研究による検証などは行って 

 おりませんし、今後変わりうることもありますので、そのつもりでお読みください。

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