人がよりよく生きるには、経験が非常に大事だなと思います。
発達障がいがあってもなくても同じですよね。
スキルを習得するにも、自分の適性を知るのも、まずは経験することから。
やってみないと、できるかどうか、好きかどうかがわかりません。
やったことないことを、選べと言っても選べません。
人は皆、自分の経験をもとに、次どうするかを決めていくと思います。
発達障がい児者の支援において、この「経験」の重要性を実感しています。
幼児期から学童期にかけて、どんな経験をどのように積み重ねるかが、
将来の自立のカギになってきます。
発達障がい児者は、さまざまな経験が不足しがちです。
これは、本人や親御さん、周囲の大人の努力の問題ではなく、
障がい特性から、自然とそうなってしまうのです。
園や学校への行き渋りや不登校になると、より経験が不足します。
なぜ経験が不足するのか。
もちろん、支援する場所が不足、理解者が少ない、という課題もあります。
けれど、それだけではない、と思っています。
まず一つに、見知らぬこと、見通しの立たないことに不安を感じやすく、
また、どういう手順ややり方でやればいいか思いつきにくいことから、
なじんだこと、習慣を繰り返すことを好む、という特性があります。
そうすると、なかなか新しいことにチャレンジしたがりません。
未知の事柄や場所、人に向かっていくことが億劫になりやすいのです。
二つ目は、完璧主義で失敗をいやがる、という特性です。
完璧主義とは、物事がスムーズに滞りなく進む状態を心地よい、と感じたり、
最初から最後まで、自力でパーフェクトにやり遂げたい、という欲求をいいます。
それ自体は悪いことではないのですが、ハードルが高くなると、本人が苦しみます。
目標が高すぎて、失敗するくらいなら最初からやらない、という白黒思考にもなります。
はじめてのことは、どうしても行きつ戻りつして、試行錯誤の連続です。
時には失敗したり、壁にぶつかったりと、スムーズに事が運びません。
それが非常に居心地悪くて、さらに失敗へのダメージの大きさから、
次はもうやらなくなります。モチベーションが低下するのです。
特に手先や運動が不器用なタイプによく見られます。
そういう人は、頭でイメージしたようには、うまく実行できませんから、
失敗感や不全感をより持ちやすくなります。
三つめは、経験を般化することが苦手、という特性です。
これも、最近本当に実感していることなのですが、
発達障がいの人たちの脳は、これまで経験したこと(データ)を、
記憶の倉庫から取り出して、状況に合わせてうまく使っていくことが苦手です。
能力はあるけれど、場に応じて上手に発揮できないのです。
私は「パフォーマンス」という言葉をよく使っているのですが、
誰でも緊張すると人前で話せなかったり、実力が発揮できないことはよくあります。
そしてどんな状態でも一定のパフォーマンスを行うためには、
日頃のたゆまない練習と、場数を踏むことが必要です。これも経験ですね。
こう考えていくと、本人や家族の努力いかんの問題でなく、
特性に合わせて対応していると、必然的に経験の機会が狭まってくるのです。
なぜ、こんな話をするのかというと、「経験が必要です」とだけ言うと、
本人や家族が、新しい場や人にチャレンジしないことで自分たちを責めたり、
反対に、やみくもに新しいことに放り込んでしまって、失敗の連続になり、
かえってマイナス体験を増やすことになりかねないからです。
よりよい経験を積むためには、事前の準備と工夫が必須になります。
ごくごく簡単に述べると、なるべく最初の体験は失敗せずに終われるように、
本人ができることや興味関心から目標を絞り込み、
視覚支援などを通して、まずはやり方を丁寧に教えます。
次に、手助けを少しずつ減らしていき、自力で行う機会を作ります。
視覚支援を見ながらだと、その都度教え直さなくても、
自分で正しいやり方を確認しながら取り組めます。
必要なら他者からの賞賛やごほうびも加えます。
そうやって何度も何度も繰り返し経験(練習)をして、
やりとげた、という達成感と、周りから認められた、という実感を積み重ねます。
物事が習熟してできることが増えると、自信もついて安定感が出てきます。
新たなことへにチャレンジする意欲も損ないません。
ストレスへの耐性がつき、嫌なことがあっても立ち直りが早くなります。
成人期の発達障がい者と話していると、見えないことを想像することが苦手なため、
他者の意見や気持ち、社会や世間の何となくの雰囲気などに同調して行動するより、
自分の経験したことを重視し、行動の根拠とする場合が多いように思います。
だからこそ、どのような経験を積み重ねるかが大事になるのです。
子どもでも、成人でも同じです。
今、ここから、何をどう経験していくのか。
やってよかった、次またやってみよう、と思えるような
素敵な経験ができることを願っています。
※ここに書いたことは、これまでの実践経験から得た知恵みたいなもので、研究による検証などは行って
おりませんし、今後変わりうることもありますので、そのつもりでお読みください。
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