『少数派』としての生きにくさ

相談や研修では、発達障がいのある人は、脳と神経の働き・機能の特性(脳のタイプ)が「少数派」であると説明しています。

社会は多数派を標準としたルールや行動様式で作られています。

「少数派」ゆえに、発達障がい者は、生活のさまざまな場面で誤解やズレが起こりやすく、日々生きにくさを感じています。


どんな生きにくさがあるのか、以下の3つに整理しました。

 

1.脳と神経の特性そのものから生じる困難さ

2.「普通」に合わせることを周りから期待され続けること

3.周囲の理解のなさ、無視や攻撃から生じる苦痛

 


1と3は、本人にとっても周囲にとっても想定、実感しやすいかと思います。


けれど、2は結構気づかれにくいのでは…と考えています。

 

特に発達障がいの特性が見えにくいタイプ(いわゆるグレーゾーンと呼ばれる診断閾下の人たち)は、2の生きにくさが強くなります。



1.脳と神経の特性そのものから生じる困難さ


例えば、以下のような困難さや苦痛です。


◎感覚過敏による不快感〜音に敏感で疲れる、光が眩しく頭痛になる

◎不器用さによる不達成感や悔しさ〜字がうまく書けない、作業スピードが遅く周りについていけない◎不注意による失敗感や不全感〜予定を忘れる、物をなくす、書類にミスが多い


これ以外にも、あるかと思います。



また、能力の凸凹が大きく、できること・できないことの差があり過ぎることも高いストレスです。


周りから怠けやさぼりと誤解を受けるだけでなく、自分でも、これはできるのに、どうしてこれはできないのだろうと、もどかしく思いますし、努力不足を責めたり恥じたりします。


苦手な事柄に取りかかること自体、億劫に感じて、隠そうとごまかす、回避するようにもなります。




先に3を解説します。


3.周囲の理解のなさ、無視や攻撃から生じる苦痛


「少数派」であることを周りから理解されないと、周りから過度な叱責や非難を受けたり、集団で孤立したりすることがあります。


過去にいじめやパワハラを受けた、と本人たちからよく聞きます。


明らかないじめとまではいかなくても、バカにされたり、からかわれたり、集団生活で悔しい思いをした人もいます。


それらをきっかけに不登校になること、人と会うことに強い緊張や警戒心を抱いてしまうこともあるかもしれません。


トラウマ体験として長く記憶に残り、大人になってもフラッシュバックに苦しめられることもあります。




1と3だけでも、相当な負荷が生じるので、早期からの介入やサポートが必須です。


最後に見落としがちな2について説明します。



2.「普通」に合わせることを周りから期待され続けること


脳と神経の特性が「少数派」であることに気づかない場合、周りは「普通」であることを当たり前に求めます。


一般的な活動内容、手順、課題量や時間などで行うことを期待するのです。


けれど、実際はその人の能力やペース、興味関心に沿わないため、本人は少しずつムリを重ねたり、がんばって「普通」にふるまおうとしたりします。


このように普通のふりを装うことを「カムフラージュ」(擬態、偽装)とよびます。

「過剰適応」という表現も聞いたことがあるかもしれません。


カムフラージュも過剰適応も、周りからより気づかれにくいですし、時に本人も自身の負荷に気づいていない場合があります。


続けていくと、どこかで折れたり、燃え尽きたりします。

うつなどを発症することもあります。



周りが「普通」に合わせることを期待し続ける弊害はそれだけではありません。


育ちの中で本人が、「こうあらねば」「こうしなければ」というルール、信念に縛られやすくなります。


「普通になりたい」「皆と同じでありたい」と願いながらも、かなわないことで苛立ち、自分を責めて(時に周りに転嫁して)、苦しみます。


「とてもがんばっているね」といった支援側の肯定の言葉も、「できて当然」「大したことない」と否定的になり自信につながりません。


親や支援者が、障がいのサポート制度を使い、もっとゆるやかに学校生活や就労をと勧めても、本人は

目指していた「普通」が諦めきれず、なかなか受け入れられないのです。




成人期の相談では、1や3だけでなく、2の生きにくさが長年積み重なって、本人も周りも苦しそうなのに、方向転換ができずにいる方々にお会いします。


おそらく特性上、新しいやり方に変化・更新していくことに、抵抗を感じやすいのだと思います。



ですので、幼児期・学齢期から、2の生きにくさに目を向けて、「今は何とかついていけてるから大丈夫」と周りがムリさせていないか、常に確認してほしいと思います。


もし気づいたとしたら、一旦「普通」は横に置いて、「少数派」のふるまいやペースを尊重した対応に変えてもらえたらと願うのです。



 

 

※ここに書いたことは、これまでの実践経験から得た知恵みたいなもので、研究による検証などは行っておりませんし、今後変わりうることもありますので、そのつもりでお読みください。

 

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