自己理解を支える

2018年1月29日、福岡市発達障がい者支援センター(ゆうゆうセンター)主催の保護者向け連続講座「はじめの一歩」でお話してきました。

私が担当したのは、第8回の『自己理解を支える』というテーマです。

発達障がい支援、特に成人支援の就労支援の現場では、『自己理解』は重要なキーワードになっています。


ただ告知を受けたり、ちょっと障がいを説明されたりしただけでは、すぐに自己理解ができるわけではありません。


将来の進路選択や自立のためにも自己理解は必須なのですけど、今回の講座では、幼児期から家庭で何をどのように育てていくのか、また本人への障がい告知やその後の障がい理解をどう進めていくのか、具体例を紹介しつつ、自己理解をどのようにサポートするのかという話をしました。

先日、ゆうゆうセンターから参加者のアンケートの感想が送られてきまして、「とてもわかりやすかった」「大事なテーマだった」「将来の見通しが立った」「親としての方針が見えてきた」「本人に任せる機会を作りたい」など嬉しい言葉をたくさんいただき、私自身も励みになりました。
改めてお礼申し上げます。ありがとうございます。

それで、せっかくなので、『自己理解』のことをこのブログでちょっと触れておこうと思います。


自己理解とは、専門用語ではないので、明確に定義されているわけではありませんが、私は以下のように説明しています。

1)自分にできること
*人より得意なこと、強み
*人並みにできること
*やってて苦もなく続けられること
◎好きなこと、やってて楽しいこと、心地いいこと

2)自分の苦手なこと
①周りの理解や自分自身の工夫で補えること
*工夫やサポートの方法を知っておく
*必要なときには、自分で他者に理解やサポートを頼む
②どうしても苦手なこと
*避ける、他者に代わりにやってもらう
*公的なサポート制度を使う

ここで大事なのは、あくまでも『自分にできること』が先にある、ということです。
発達障がい本人が、周りから苦手さに注目され、こうしたらいい、もっと頑張りなさいと言われることはとても多いようなんですけど、それは正直に言うと、自己理解の支援ではないと思います。

発達障がいがあろうがなかろうが、面と向かって苦手さを指摘されるのはイヤだし辛いことではありませんか。
自分はダメなんだと落ち込むし、自信をなくしかねません。
それを発達障がいの人だけ言われるのが当たり前で、耐えろというのはおかしな話です。

自分を知るとか、自分のできないことに向き合うってとても大変なんです。
だから、支援をする側が大前提として持ってほしい考えだなあ…と思っています。

それと就活するときには、苦手さだけを言われても、雇用する側は困られます。
「私はこれが苦手です」よりも、まず何より「私はこれならできます」という自己アピールが必要なのです。

だから『自分にできること』とは、人より得意なことだけでなく、人並みにできて、なおかつ自身がやり続けられることも知っておくことが重要なのです。
できることでも続けるのがしんどい、となると、毎日行う仕事としては向かないのです。

また好きなことについては、それなりのスキルがないと仕事としては成立しませんよね。
だから、これは主に余暇やリラックス、ストレス発散の手段になります。

『自分の苦手なこと』は、①と②とで分かれます。この二つをあえて分けているのは、対応をごっちゃにされやすいからです。
苦手なことを全て自分の工夫で何とかすることも、反対に全てを他者に替わってもらうことも現実的には難しいことだと思います。

①は例えば、口頭指示では忘れやすいとき、自分でメモをとったり、相手からゆっくり言ってもらう(またはメモを渡してもらう)ことで、何とか忘れずにできるかもしれません。

②の例は、水の感触が苦手な感覚過敏がある場合、家事のお皿洗いは他の人にお願いして(ヘルパーを利用して)、自分では掃除機をかけることを担う、などが考えられます。

『自分にできること』と『自分の苦手なこと』、工夫で何とかなること、どうしてもムリなことは、日々の生活で経験を積み重ねる中で少しずつ見えてくるものです。
また年齢や環境、活動によっても変化するものでもあります。

そして、一番大事にしたいのは、「苦手なことがある」≠「人として劣っている」ということなんですよね。
苦手さを周りから注意されていると、自己否定感や無力感に陥りがちです。
よいところも苦手さも含めて自分であり、それでよい、と思えることが自己理解なのだと思います。


さて、自己理解のサポートですけども、以下の流れで進みます。

1.周りの理解と支援
まずは周りが障がい特性の理解や、うまくいく工夫を考えることです。どの年齢で診断されても同じです。

学業や友人関係も大切ですが、それよりも優先した方がよいのは、ライフスキル(家事や自己管理などの自立生活を送るためのスキル)と、自分で選んだり伝えたりするスキルを、視覚的な手段を使って教えて、自分でできた、わかったという達成感を積み重ねていきます。

いわゆる自信や自己肯定感は、他者からの賞賛で育つのではなく、自分にはやれる力があるという自己効力感が必須となるのです。

それに、自力でうまくいく方法をわかりやすく教えてくれる他者に信頼感を持ちますよ。
さらに、「今の自分でも大丈夫」「違いがあってもやりようがある」という実感は、障がいを前向きに受け止めることにもつながります。

2.本人に少しずつ移行する
さまざまなスキルの獲得とともに、本人一人に任せていく場面を増やしていきます。
前もって視覚的に予定や手順を伝えますが、やっている途中に周囲は手を出さず、黙って見守るのです。
まだまだ未熟なことはたくさんあったとしても、待つことが肝要なのです。

任されて自力でやり遂げられると本人の自信にもなりますし、つまずけば手立ての見直しだけでなく、周りの手助けの必要性も実感しやすくなります。

他者に頼むことも自分でやってみるとよいです。
その際は口で言うことにこだわらず、手紙やメールなど視覚的な手段を使って、言いたいことを文字にして整理して、相手に伝えます。
社会人になると、人への伝達は、口頭やメモ、手紙やメールなど様々な手段を、状況や相手との関係性に合わせて選択していきますよね。
口で言うことだけでなく、色々な手段を使いこなす練習をしておく方が実は自立的なのですよ。

また、予定や活動を、自分で選んだり決めたりして、その結果どうなるかという経験を積み重ねることも大事です。
最初は大人同士が打合せをしておいて、成功体験になるよう配慮しますが、任されてやっていけば、時に失敗することも出てきます。

事前に手順や心構え、困ったり失敗した時の対処法などを整理しておいた上で、事後に何が起こったのか、うまくいったこともつまずいたことも含めて振り返り、次にはこうしていこうと話し合っていく方法を取り入れていくのです。
私自身は、思春期頃になると、この事後の振り返りが必須な支援だなあと考えています。

そして、そういった保護者がしている支援を本人に少しずつフィードバックしていきます。
「これが得意だよね」「こうするとうまくいきやすいね」「ここが苦手だけどこうするとわかるよね」など、具体的な特性と工夫を、言葉や文字で伝える機会を作るのです。

普段の生活の折々で伝えてもいいですし、保護者が作っていたサポートブックを、本人と一緒に作ってもいいかもしれません。

3.本人に障がい名を告知する
障がいの本人告知については、幾つか書籍が出ています。講座ではその紹介が中心だったので、ここでは詳細を省きます。
どの時期に、どのような方法で伝えるのかは、個々人で異なりますが、いずれにしても、周りは丁寧に準備して、本人にとってわかりやすい内容や手段で告知を行います。

4.本人自身が障がい特性を学ぶ
障がいの告知後も、自己理解は続きます。本人告知は一つの節目、通過点です。
これまでの特性と工夫に加えて、障がいとは何かという知識をプラスして、障がいとの付き合い方を学んでいきます。

同じ診断名でも個々での特性と工夫には違いがありますし、ライフステージでの特性の現れ方は異なります。
発達障がい者は、経験を通じての方が学びやすいので、机上で資料や書籍だけよりは、日常生活の様々な場面を通して、自分自身はどうするとうまくいきやすいかを振り返り、すでにやっている工夫を生かしながら整理をしていきます。

それと、発達障がいと比較して、定型発達者の特徴や付き合っていく上での対策なども学べると、多数派の社会の中で生きやすくなります。

障がいに関することは、保護者からの説明でもよいのですが、できれば専門家から直接聞けるのがよいと思います。

5.周りに特性を伝える方法を整理する
特性の学習を続けていく中で、振り返る機会を持ち、「これはできるけど、ここは苦手だから、こんなふうにサポートしてほしい」を紙面にしてまとめます。

自分で作るサポートブックですね。他者に整理して伝えることが苦手な特性がありますので、理解者を増やしたり、支援をつなぐツールとして活用していきます。


1.~5.のサポートの順番は、どの年齢からでも、まず1.からのスタートだと考えていますが、思春期~成人期に発達障がいがわかった場合、4.の告知が先に来ることもあるため、ほぼ全てを同時平行で行っていくことがあります。

発達障がいの人とお付き合いしていると、成人になっても、何らかのサポートは必要なんだなと感じます。

自立を目指して、さまざまなスキルを教えようとしても、全てを一人でできるようになることは難しく、何かしらの他者の助けを借りながら暮らしていくことになります。
でも、何を誰に助けてほしいのか、自分で選び、頼めるとより自立的です。

また、障害者差別解消法における『合理的配慮』を得るには、障がい表明、つまり自分で自分に必要な支援を説明できることが必須です。

だから、5.のサポートブックに自分の特性と支援をまとめられたら、自己理解のサポートは、ひとまずのゴールと言えるのかなと個人的には思っています。

いずれにしても、自分を知ることは長い長い道程なので、焦らずゆっくりと積み重ねていけるとよいなーと思います。


サポートの方法について、具体的に知りたい方は、相談または研修の機会をぜひご利用くださいね。(ちょっと宣伝(^^))

                                   (終)                                                                    

※ここに書いたことは、これまでの実践経験から得た知恵みたいなもので、研究による検証などは行っておりませんし、今後変わりうることもありますので、そのつもりでお読みください。

 

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