障がいは受容させるものか 前編

長くこの仕事をしていると、支援者からよく尋ねられる質問の一つに「保護者に障がいを理解してもらうにはどうしたらいいのでしょうか」というものがあります。

最近も訊かれることがあったので、ちょっと考えをまとめておこうと思います。

本人の障がい受容の話もしたいのですが、今回は、保護者の障がい受容の話に限定いたします。 

 

1)よく聞かれるエピソード

 

まずは、診断をすすめても、なかなか専門機関につながらない、というお話です。

幼稚園・保育園や学校で、集団生活でのトラブルが続き、発達障がいが疑われて、医療機関を紹介したけれども受診に至らない、というお話は、あちこちで起こっているのではと思います。

 

また、医療機関を受診して何らかの診断は受けたものの、日常生活で障がいに合わせた対応や工夫がなされないままのこともあります。

 

継続して通院や療育に行かないことや、障がい児保育や就学相談会などの制度利用に抵抗することもあります。


そして、「あの保護者は障がいを受容できていないから…」という言葉がひそかにささやかれるのです。

 

確かに、これらはいわゆる『障がい受容』の問題だとは思います。

 

 

2)受容は主体的に行われるもの

 

障がい受容にまつわるお話を聞くたびにいつも思うのは、障がいを受容するかどうかは、その保護者が選ぶことであって、決して周囲が「受容させる」ものではない、ということです。

 

その人自身が決めることですから、もっと言えば「受容しない」という選択もアリ、なわけです。


早期発見・早期療育(対応)が言われるようになって、ずいぶん経ちました。

早く気づいて、早く対応することは、私自身も本当に必要なことだと思います。

 

また、子育て中の保護者が、自ら我が子の障がいに気づくことは限界があります。

子どもの育ちのために、障がいのリスクに早く気づいて当人たちに伝えること、その仕組みつくりは、社会の役割でもあると思います。

 

ですが、そのことと、保護者が早く障がいを受容することとは、別に考えた方がいいと思っています。

障がい受容を、周囲が強要することはできません。

 

早期発見、早期療育がよいからといって、それをしようとしない保護者を責める風潮になってないか、我々は振り返る必要があります。

社会の認知は広がったからといって、これから我が子の障がいに気づく保護者にとっては、初めての体験なのです。

 

 

3)障がい受容は容易ではない

 

そもそも、障がい受容とは簡単なものではありません。

個人差はありますが、多くは、ものすごく時間がかかるものです。

 

我々だって、自らの重い病気を告知されたら、なかなか受け入れがたいはずです。

治らない、と言われたらなおのことです。

 

現状の遅れや苦手さは受け容れていても、将来的には追いつくはずと期待していることもよくあります

 

一旦受容はしていても、入学式や卒業式、部活や受験、就職や成人式など、一般の子どもの成長の節目に出会うたびに悲しくなるとおっしゃられる保護者もいます。

 

障がい受容は、一生涯かかると考えてもよいくらいです。

      

特に発達障がいは、目に見えにくい障がいですし、多くは発達期に気づくので、できないことがあっても、年齢が上がると身に付いて、そのことは気にならなくなります。

(もちろん年齢に応じた新たな課題が出てきます。)

 

また、低年齢のうちは、周囲との差が目立たないこともあります。

(例えば、高機能タイプの自閉症スペクトラムの社会性の問題は、小学校高学年から定型発達との差が顕著になり始めます。)

 

だから、成長もしているし、このまま何とかなるかも、と思えて、なかなか診断までは思いきれない、合わせた対応を取り入れるまではなく、「普通に」やれるはず、と思ってしまいやすいのです。

 

私自身、若い頃は、自分の説明が悪かったのかもと反省ばかりでしたが、たくさんの保護者にお会いし続けて、ある時、そういうものではないんだな、と思うようになりました。

 

支援者が誠実に丁寧に説明、対応することは当たり前なのですが、それをしたからといって、早く受容が進むわけではありません。

 

の方も、ある程度の時間と、子どもの年齢や成長とともに、やはりどうしても育ちにくいことがあるのだと実感していくプロセスが必要なのです。

 

個人的な印象としては、早くても2~3年、人によっては5年、10年、それ以上かかることもあるかな、と思っています。

   

だから、周囲は、正しい情報提供をした後には、焦らずに待つことしかできません。

その家族が今後、前向きに受け止め、苦労はありつつも幸せな人生を過ごせますようにと、心の中で祈るような気持ちでいます。

 

もっと言うと、その人の苦悩や葛藤の時間を奪わないことが必要なのだとも考えるようになりました。

 

もし保護者自身が、我が子の障がいを前向きに受け止められなかったり、わかっていても感情的に叱ってしまったりしても、決して自分を責めないで、ぜひ納得がいくまで悩んでほしいです。

また、進路についても、周りから支援学級を薦められているのに通常学級に行かせたいと思っているのなら、うまくいかなかったときの方向修正ありきで、一度チャレンジしてもいいのかなとも思います。

 

 

ちょっと長くなりましたので、続きは次の記事にしますね。→後編

 

 

※ここに書いたことは、これまでの実践経験から得た知恵みたいなもので、研究による検証などは行っておりませんし、今後変わりうることもありますので、そのつもりでお読みください。

 

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